甦る“ファントム・ネスト”


2009年夏、百里基地


今年初め、「はみだしコラム」において“何かにつけ劇的な変化があるだろうと思われる2009年”との書き出しで 百里基地の事について触れましたが。
1つの変化として、やはり部隊の入れ替えというか交代が大きな事象であることは間違いありません。 コレに関しては時代の流れといいますか、起こるべくして起こる変化でもあるわけですが、大体においてそれは 「進化」が当然といえます。が、今回のコレはある意味「退化」と評されても致し方ない側面もありますが、 個人的には進化だの退化だのという話ではなく、素直に「喜ばしい」と断言しちゃいます。

だって、ねえ。
「百里にファントム」というキーワードは、私ら世代の戦闘機ファンにとって過ごしてきた時代そのものなのですから。

さらにもう1つの変化が。
変化というよりも、進化の過程というほうが正解かもしれませんが、 先のコラムにも書いたとおり、茨城空港建設により滑走路が2本になったんですよ。んで、新しい滑走路が完成した タイミングでこれまで使用していた滑走路をリフレッシュする事になったんですな。これが。
これがどういう意味を持つのか。
新滑走路は、これまでの滑走路の西側に新設されました。がしかし、百里基地の敷地で、そちら側のスペースは実はそんなに 広くはないのです。という事は、新滑走路は基地を囲う柵に限りなく近接せざるを得ないという事です。 つまりは「これまでよりもはるかに近い場所を戦闘機が行き交う」というわけです。 一般のギャラリーにとっては、これは非常に大きな意味を持つのです。

と、まあそんなわけで、今年後半はろくに休みも取れないことが確実となってしまいましたので、今回のタイミングで 百里基地訪問、と相成ったわけです。もちろん、目的は懐かしの「尾白鷲ファントム」の雄姿を眺める為です。

それに先立って、前のページでもちょっと触れましたが、私にとってある意味カメラよりも重要なアイテムが あるのです。それは「エアバンドラジオ」というアイテム。
単なる受信機なんですが、これは何をするモノかと言いますと、飛行機と地上(管制塔とかレーダーとか)の交信を 聴くためです。 んで、何でそんなものが必要なのかといいますと、ズバリ「先んじてアクションが取れる」からに他なりません。
要するに、交信内容を聞いて、飛行機が動く(離陸や着陸は言うに及ばず)タイミングを察知してベストな状態に スタンバイできる、という事です。 また、訓練内容の把握や、極秘の訓練中の交信なども聞けて、その臨場感も楽しめるという要素もあります。
もっとも
その下準備は大変なんですけどね。
前のページで言っていた「下ごしらえ」ってのがそれで、要するに予め使用するチャンネル(というか周波数)をプリセット しておく必要があるのです。
飛行機の場合、離陸するにもまず「グランド」というセクションと交信して滑走路まで行く許可を取り、「タワー」から 離陸許可をもらって初めて離陸します。離陸直後に「ディパーチャー」と交信して飛行経路の指示を受け、訓練空域まで 飛ぶわけです。
そのそれぞれのセクションには決まった周波数が割り当てられており、それをセットしておけば聞き逃す事もない、という 具合です。 私の場合、これらに加えて極秘のチャンネルもありますので、それも加えておかなければなりません。 この極秘チャンネルは一般には公開されず、万が一公開されたらすかさず変更されてしまいます。もちろん、防衛上の 機密です。


そんなこんなで、昨日「ワンダーフェスティバル」から実家へ還る途中に目星をつけた鑑賞ポイントまで行きます。何気に 早く目が覚めてしまい、現地へ到着したのは6時ちょっと前。
来る途中、畑になびく幟を見て今日の滑走路の方向を確認します。幟は南風を受けてゆっくりと北になびいています。という事 は、今日は北から南に向かって離着陸をします。百里基地で言えば「ランウェイ21」という事ですな。
余談ですが、数字は磁方位をさしてます。真北を0、あるいは360としてほぼ 南北に滑走路が走っていますので、北側から南を望む方向が210°、つまり「21」で、反対側が30°で「03」と 呼ばれます。
既に太陽もかなりの高さにあり、雲もまばらな絶好のウォッチング日和となっています。
さあ、あとは訓練開始を待つばかりです。


時刻は7時をちょっと過ぎた頃です。
ハンガーの扉が開かれ、エプロンに機体が搬出され列線が形成されていきます。
と、ラインができたのは302飛行隊のみ。305飛行隊のF−15や501飛行隊の偵察機はまだ出てきませんな。
83航空隊(沖縄ね)にいた頃は、この時間にはすでにプリ・フライトチェックも済ませていたと記憶してるんですが、 まあ、あそこは民間機との兼ね合いもあって、時間が若干早めにずらしてあったんでしょうか。
なんて思っている内に、各飛行隊も出揃い、エプロンがにぎやかになってきました。ただ、501飛行隊のファントムが やけに少ないのが気になります。










8時を回った頃、滑走路を隊員が横一列になって歩いています。
これは「FOD」といって、滑走路上の小石やゴミなどを除去する作業。そういえば、週明け一発目にはやってたな、那覇でも。
ほんの数センチ大の小石でも、エンジンに吸い込むと致命傷になりますから慎重です。



もさっとしていると、私以外のギャラリーもきはじめました。
平日でもやっぱり多いんだね、ここは。今日は私もそのうちの1人なんですけどね。
徐々に増え始めるギャラリー、中には平気で立ち入り禁止場所に入っていく者も…
当然基地の警備に注意されて退去させられましたが、やはりどこの世界でもマナーって大切なのに蔑ろにされてますねぇ。
ほんと、1人1人の自覚の問題なんですけどね。
このようなマナー違反の積み重ねが、結局は立ち入り禁止区域の拡大に繋がってしまうんですけどね。小松空港の松林しかり、 この百里の「くの字」や「アラート横」しかり。
土地の所有者が悪いんじゃなくて、マナーを守らなかった人が悪いんですけどね。自業自得ってやつです。

それはさておき
既にラジオは電源ONです。エプロンの機体に動きがないのに、百里基地のタワー(管制塔)にコンタクトがありました。
「アスコット」というコールサインで着陸許可を求めています。
あれ、まだ一機も飛んでないけどな?と思い、アプローチコース上に目をやると確かにランディングライトの輝きが。
そういや、「アスコット」ってどの飛行隊なんだっけ?と考えていると、機体が判別できるようになって判明しました。 救難隊の捜索機です。きっと他の基地へ出向いていたのが帰ってきたのでしょう。




じりじりと直射日光に喘ぎながら、ひたすら上がるのを待ちます。暑いって…
そして8時30分くらいだったでしょうか、エプロンからJFSの音が響いてきます。
どうやら今日の1発目は305飛行隊のF−15からのようです。百里グランドとの交信を聞いて、305飛行隊の コールサインが「エンジョイ」だと判明しました。
と、いきなりタワーへコンタクトしてリクエストをしていますが、交信の中でしきりと「スクランブル」という単語が 発せられています。ホットスクランブルなのか、アラート交代なのか、判断がつきませんが、「エンジョイ76、スクランブル オーダー、(なんたらかんたら)オーダータイム…」との交信内容から、アラート訓練とわかりました。
そもそも、「エンジョイ76」というコールナンバーからしておかしいし。ちなみに、この「エンジョイ76」がアン・ノウン 役のT−4のコールナンバーでした。迎撃側は普通に「エンジョイ01」とかだったし。
おまけに、新人の初飛行もあったのか、別のエレメントでは細々と注意する声も聞こえてきます。
「キャノピー閉めろ!」
「はい、すみません!」
てな事いってましたね。なんでラジオで?別の機体から?グランドから?
まあ、そんなこんなで305飛行隊の1stがタクシーアウトして滑走路端まで進んでいきます。
ラストチャンスでの作業も終わり、タワーと交信し、「エンジョイ01、ランウェイ21クリアーテイクオフ。」 との離陸許可が下り、滑走路へと乗り出して離陸していきます。






オグメンタ(アフターバーナー)を焚かないで離陸です。少々物足りない感じですが、それでもこれだけ間近で見ると 迫力が違います。現役時代でもこれだけ近くで離陸を眺めた記憶はそんなにありません。

9時を少し回ったくらいだったでしょうか、エプロンからGTCの音が聞こえてきます。
ようやくファントムが動き出しました。302飛行隊からですか。
タクシーアウトの許可が下りて、機体が滑走路へ向けて動き出しました。302飛行隊のコールサインは「ジミー」ですか。 沖縄から来たからですか?沖縄に「ジミー」っていう店ありましたよね、確か。何のお店だったっけ?
滑走路端のアーミングエリアでセフティーピンを外して待機しています。
ラジオに離陸許可を求める交信が入り、「クリアード・フォーテイクオフ」と許可が下りて滑走路に出てきます。








6機のファントムが次々と離陸していきます。
アフターバーナーを噴いて離陸するファントム、五臓六腑を叩きつけるような轟音と振動がたまりません。
やっぱり、このJ79エンジンの轟音は素晴らしいです。爆音なのに気持ちが安らぎます。
もうこうなると変態ですか?変態ですね。

間を空けずに、501飛行隊のファントムも動き出しました。
しかし、最初の1機はタクシーランナップのようで、ゆっくりと滑走路を走ってエプロンに戻りました。
501飛行隊のコールサインは「キューダス」ですか。

さて、ひとしきり上がったところで早くも小休止です。基地は比較的静寂といった所でしょうか。という事で、ここは先ほど 上がったスクランブル訓練の模様を聞いてみる事に。
チャンネルにコンタクトすると、おお、やってますな。
激しく「国籍不明機」に対して警告を発しています。なかなかに緊迫感が漂います。
というか、まだ「あの国」の言葉ですか。そろそろすこし下の「あのヘンな国」の警告文も必要ではないでしょうか?
ああ、どのみちあの国は戦略機を戦略機として使えるほど余裕はないから必要ないのでしょうかね。大陸間弾道ミサイルには 警告文は意味ないしね。
そうこうしている内に、305飛行隊の1stが帰ってきました。
4機がフィンガーチップフォーメーションで進入し、一機ずつブレイクしてオーバーヘッドアプローチです。
しばらくすると、先ほど上がった302飛行隊も訓練を終えて帰ってくるようです。
百里レーダーにコンタクトして、ノースIP(イニシャルポイント)到達を告げていますが、機体はまだ見えません。
レーダーからタワーへコンタクトしたようですが、まだ見えません。
大体、IPをコールしてタワーへコンタクトする頃には機体が見えていたハズですが、私の視力が落ちたからわからない のかな…
と思いきや、以前とは全然違う方向から姿を現しました。イニシャルポイントを変えたのかな?ベースレグが根本的に かわったのかな?








そして入れ替わるようにして501飛行隊が出て行きます。今度は上がるようです。






501飛行隊のファントムが上がってしばらくは動きがありません。
というか、なんか雲が多くなってきたような…
時間にして昼頃です。305飛行隊の第2陣、2ndが始まったようです。
機数は少ないものの、1stと同じように上がっていきました。この頃になると、雲も厚くなりその範囲も広がってきています。

と、先ほど上がった501飛行隊のファントムが帰ってきたようです。
交信では「ローパス」との事。つまり低い高度でフライパスするってことですか。
というか、この場所からは進入してくるのが見えません。見えた!とおもったらメチャクチャ低いし。
航空際でのローパスより低かったです。2機目を何とか写真に収められましたが、散々なものになってしまいました。 あんだけ低いとやっぱり速いわ…
そのままオーバーヘッドで着陸しました。






その後、302飛行隊のファントムもエンジンをかけ始め、2ndの先陣をきってT−4がランウェイエンドへ向かいますが、 その最中にラジオには気象情報が。
「基地南東にエコーあり、ライトニングも確認されています」との事。そういえば先ほど上がった305のF−15も、ディパーチャー に雲の大きさや距離なんかを伝えてたっけ。
懸念されるのは訓練空域の天候、あまり芳しくないようです。
しばらくすると、残念な声が聞こえてきました。
「ジミーフライト、セカンドキャンセル、セカンドキャンセル」
要するに訓練中止です。飛びません。305の2ndもそそくさと降りてきます。
雲は厚く暗くなるばかり、その後セカンドだけではなくそのままオールデイキャンセルとなり、飛行機は全てハンガーイン されたとの事です。






もはやここに居ても仕方がないので、今日は撤収。明日に予定していた野暮用を繰り上げ、明日再び参上する事にします。


さて、実家に帰るとお隣さんに久しぶりに会いました。
会ったついでに呑みに誘われ、これまた随分久しぶりに酒なんかをかっくらいます。というか呑まされます。お隣さんは兄貴の 同級生なのです。そりゃあもう、ガンガン呑まされます。

友人からの食事の誘いがあった頃には吐きっぱなしでした。
せっかくの誘いを断腸の思いで断って、そのまま眠っちまいました。
くそう、明日こそは…




で、次の日。

若干二日酔いの頭で百里へと向かいます。
昨日よりも雲が多いのが気になる所。筑波山脈はどっぷりと雲が覆いかぶさっています。所々霧なんかも…
今日の使用滑走路はどっちかな、と、あちこちの畑にある案山子や幟を見ると、無風。若干東から微風が。
という事で、今日は反対の「ランウェイ03」と目星をつけ、アラート前に陣取ります。午前6時のことでした。と、 やや風が東南東よりに…
という事で、やっぱり今日も「21」のようです。昨日の場所よりやや南に行ったところへ移動します。
昨日よりも動きは遅く、7時30分を過ぎてもハンガーが開きません。そして雲も多くなってきています。時折晴れ間も 覗きますが、雨粒も落ちたりと安定しない天候です。
時間的にかなり遅く列線が形成されました。3つの飛行隊すべて出ています。
と、この頃には昨日よりも多いギャラリーが集まり始めました。
地元常連(というか以前は私もそうでしたが)の人に聞くと、今日はどうやら外来機が来るのだとか。どうりで 多いわけだ。みんな県外ナンバーだったりレンタカーだったり。まあ、私も県外ナンバーですけどね。

そんなこんなで、1stが上がり始めます。昨日に引き続いて305飛行隊のF−15からです。
昨日と同じく、アラート訓練もやってるようですね。








割と早めに降りてきました。訓練の成果はいかに…






間を空けずに501飛行隊が出てきましたが、例によってタクシーチェックのようです。
ゆっくりとランウェイを走っていきます。と、パイロットはギャラリーに手を振ってますな。501飛行隊サービスいいです。 別に他の飛行隊がサービス悪いってわけではないですよ。ベテラン中のベテラン揃いだし、ランウェイエンドまで行くまで 余裕があるからなんでしょうね、きっと。






さて、今日はかなり遅めのスタートとなった302飛行隊が上がるようです。
昨日とだいたい同じ規模の1stです。
昨日よりも若干滑走路に近く、リフトオフもけっこう前という事もあってその迫力はすさまじいものがあります。
















302飛行隊が上がった直後、何と305飛行隊はF−15をしまいはじめてしまいました。もう終わり?
聞くところによると、ある「お客さん」が来る時にはいつもこうなのだとか。
ふ〜ん、ようするに午後は「アレ」なんですな。納得。
そんな感じで眺めていると、早くも302飛行隊のファントムが帰ってきました。
ほぼ同時に、501飛行隊もミッション開始のようで上がっていきます。










なんだかうら寂しくなってしまった百里です。相変わらず雲も多く、フライトがなくても不思議じゃない天候です。 こんなコンディションでフライトを見られるだけでもめっけモンでしょうか。
しばらくすると、百里レーダーにコンタクトが。
百里の飛行隊とは明らかに違うコールサインでこちらに向かっています。
どうやら「お客さん」がきたようで、GCAで降りてきます。遠くとお〜く光って見えるランディングライトから、 T−4とわかります。その尾翼にはあの「コブラ」のマークが。
そつなくランディングしたあとに、本隊が到着しました。
そう、「お客さん」はこの方達でした。そりゃギャラリーも増えるわな。










中にはギャラリーに手を振ってサービスする人もいましたね。
やっぱりどこ行ってもアグレッサーは人気あるようです。訓練を受けるホストは大変でしょうけどね。
飛行教導隊の到着、そして航空総隊のT−4到着をもって、302飛行隊も店仕舞のようです。
最後に501飛行隊のファントムがタクシーチェックをして、消防車も引き上げていきました。




時間はお昼頃。
何ともお粗末なウォッチングとなってしまいました。アグレッサー狙いの方たちには悪いけど、昨日だけでも天候が 持ってくれたら…と非常に残念です。
そもそもの目的はナイトフライトを見たかったんですけど、ナイトどころか2日続けて1stで終わりとは。

さて、これで今回の百里訪問も幕と相成りました。
まあ、天候に泣かされた結果となりましたが、とりあえずフライトは堪能できたので善しとしましょう。
天候といえば、昨日は群馬で竜巻があったとか。離れてはいますが、こちらもそんな不安定な天候でしたし、 九州方面のこともありますし、今年の梅雨はなんかおかしいです。というかここ数年こんなのばっかりです。
20数年前にこの近くを襲った、テニスボール大の雹が降った時みたいな感じです。
それはともかく、次にこの地を訪れるのは何時になる事やら。とりあえず今年はもうムリ決定ですし、5年ぶりの サンダーバーズも見られない事が確定してしまっているし、こと飛行機に関しては今年はハズレですか。

ファントムが健在であるうちに、またここへ来よう。
とりあえず、今度は夏じゃない時に、ね。









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