ときめきメモリアル ドラマシリーズ Vol.2
~ 彩のラブソング~
今も昔も、バンド崩壊のきっかけは大概女絡みだったりする。
全てのバンドが、というわけではありませんが、えてして的外れでもないでしょう。
そんな「ジンクス」じみた事を再認識させてくれた作品、「彩のラブソング」です。
今作品はヒロイン中もっとも感性豊かと思われる「片桐 彩子」がメインとなっております。
私にとってこの作品は非常に心に残る作品となりました。
音楽がテーマ、という事もあるんですが、なんというか、理屈ぬきでいいんですよ、この作品。
よって長文となってしまいましたが、ご了承ください。
主人公は、学園内外に広く知られているポップスバンド「彩(いろどり)」のギタリストという設定です。
前作品の「虹色の青春」と時間軸は全く一緒。2年生の時のはなしです。と、言う事は、「虹色」の主人公
とは別人な訳ですね。
ここ、ドラマシリーズ通しての物語上意外と重要なポイントです。
物語としては
『学園際を数日後に控えたある日、主人公は学園際のバンドコンテストに向けて新曲を創っています。
いつものように昼休みの屋上で曲を創っているところに、片桐さんがやってきます。
今の曲創りにどこか違和感を覚えていた主人公に追い討ちをかけるように、片桐さんはつぶやきます。
「つまらないのね、曲創りって・・・」
貶されたと思った主人公は、それ以来悩むようになります。そんな主人公をひっそりと支えてくれて
いるのは、バンド内の「妹」的存在であるキーボードの美咲 鈴音ちゃん。
ひそかに彼に恋慕っている鈴音ちゃんは悩む主人公を励まします。が、
あの日以来、主人公の頭の中には、片桐さんの事が離れなくなっていきました。
そんなある日、ひょんな事から一緒に下校する主人公と片桐さんは寄り道して公園のベンチで一緒になって夕日を見つづけました。
そこで、曲創りで忘れていた何かを思い出した主人公。
片桐さんのお陰で、今までの悩みを解決したばかりか、新しい曲、本当に創りたかった曲を創り始める
事ができた。
しかし、それが原因で「彩」内に波風が立ち始める。学園際まであと数日。
「彩」はどうなってしまうのか・・・』
という内容です。
ポップスバンド「彩」は主人公(G)と鈴音ちゃん(Key)、主人公とは中学からの付き合いの大沢 巧実(Bass)
そしてリーダー格の田村 康司(Drm)の4人です。
そう、ボーカルがいないバンド。
主人公や巧実がボーカルを兼務していますが、やはり専属が欲しいと思っていました。
やがて巧実が片桐さんにボーカルでの加入を打診しますが、その過程で主人公は片桐さんにあまりいい感情を
抱けなかった。巧実のちょっとした冗談を真に受けてしまったからなんですが、それはやがて主人公の悩みを
増幅させる事になってしまいます。
曲創りに、どこか違和感を覚える主人公。屋上で初めて対面した片桐さんとの会話の中で、その違和感がいらだちと
なって行きますが、そこには先の巧実の言葉があっただけに、さらに困惑してしまいます。受け答えもどこか怒気を含んだ
感じで、しかし違和感から的を得た回答もできない主人公。
そして、それに対して片桐さんが言ったあの言葉。
「人まねなの?そんなわけないわよね」
「つまらないのね、曲創りって・・・」
頭にこびりついて離れない、厳しい言葉。
片桐さんにしてみれば、決して悪気や嫌味を含んだ言葉ではありませんでした。
でも、ある意味図星を指された主人公はさらに悩むことになってしまいます。
そんな主人公を放って置けない人物がいました。鈴音ちゃんです。
彼女は主人公からすれば、大切な「妹」のような存在。持ち前の優しさで、本当の妹のように接してきました。
しかし、当の鈴音ちゃんは違っていました。それは主人公とは全く違う「恋」という感情。それだけに
悩む主人公を心配し、なんとか力になりたいと思う鈴音ちゃん。
帰り道で主人公を心配し、励ましているうちに泣き出してしまった彼女の心情は計り知れません。
やがて、ひょんな事から、片桐さんのお陰で違和感の原因がわかり、自分が本当に創りたい曲を見出す事ができた主人公。
しかしそれは、バンド内に亀裂を生じさせるには充分過ぎる原因となってしまいます。
鈴音ちゃんは、主人公の事が本当に好きです。しかし、そんな彼女に思いを寄せているのが、実は巧実だったりします。
殆ど完成していたコンテスト用の曲を本当に創りたかった曲に変えようとする主人公。
コンテストまで日がない事もあり、巧実と衝突しますが、そこで主人公は片桐さんのお陰で本当に作りたい曲ができたと、口にしてしまう。
そして亀裂。
鈴音ちゃんの切なる思いを知らない主人公と、そんな主人公の言葉に傷付く鈴音ちゃん。そしてそんな2人に苛立ちを覚える巧実。
日に日に片桐さんに惹かれてゆく主人公を快く思っていないのは、なにも鈴音ちゃんだけではなんかったんですね。
創りたかった曲が完成に近づくにしたがって、反比例するようにバンドは崩壊へと進んでいってしまう。
しかし、主人公は片桐さんに対する「想い」を止められるわけもありません。
時間の経過とともに、お互いに惹かれあっていく主人公と片桐さんですが、2人の間にはもはや躊躇や戸惑いはなかった。
本当に創りたい物、それはクリエイターとしての主人公の本質があったからなんでしょう。
それ故に、同じ性質をもつ片桐さんに惹かれていったのでしょうか。
でも、そんな片桐さんも、いつしかよそよそしくなっていきます。どこか主人公を避ける態度をとる片桐さん。
そして、バンドは決定的な瞬間を迎えてしまいます。
傍からみていると少々鈍い感がある主人公ですが、それはある意味本質的な優しさからくるものなだけに、如何ともしがたい
状況に陥ってしまった、ともいえます。
嗚咽を残して去っていった鈴音ちゃんと、それを追いかける巧実。真実を告げる康司。
もはや決定的と、誰もが悟った瞬間でした。
その日の夜、置いていった鞄を届ける主人公は、自分の気持ちを鈴音ちゃんに告げることになるわけですが。
ずっと抱き続けてきた、ずっと隠し続けてきた、けれども純粋な彼女の想い。
その想いを、一気に主人公にぶつけるシーンはとても胸が熱くなりました。
「どうして私じゃだめなんですか?・・・」
「彩になんて、入るんじゃなかった!」
感情的になったとはいえ、その言葉には幾重にも主人公への想いが重なっていた事でしょう。
大切な妹が、1人の女として吐き出した、とても重たい言葉。
自分が悪いと解ってはいるものの、だからといって自分の気持ちに嘘はつけない。それは、自分を想ってくれていた鈴音ちゃん
に対する最低限の礼儀、いや、彼本来の生真面目さと優しさだったのでしょうか。
次の日、片桐さんとも言葉を交わすことができず、バンドの練習もできずに家に帰る主人公ですが、不意に片桐さんから電話が来る。
デートの誘い。
デートの当日、片桐さんと一緒にいるにもかかわらず、鈴音ちゃんの言葉が頭から離れず元気がない主人公。
そんな主人公を元気づけるように振舞う片桐さん。
昨日までのどこかよそよそしい態度を取っていた彼女とは打って変わって、主人公に何度も話しかけ、微笑み、本当に楽しそうに
その日一日を過ごします。
けれど、やはり主人公は鈴音ちゃんの言葉を振り切ることはできません。
別れ際、彼女が本当に描きたかったもの、と渡してくれた絵は、ギターを弾く主人公の絵でした。
その絵を主人公に渡し、素直な気持ちを伝えます。
「いつまでも、今のままのあなたでいて。素敵なままの、あなたでいて・・・」
しかし、主人公の、「片桐さんがいたから、片桐さんのために曲を創った。」
という言葉に、隠していた言葉をつい口にしてしまう片桐さん。
「I Can’t Seeyou Anymore・・・」
涙ながらに告げた別れの言葉、でもそれは主人公には伝わることはありませんでした(英語だし)。
その晩、どこか吹っ切れた感じの主人公は、片桐さんのために創っている曲を一気に完成させます。
それは文化祭当日。徹夜で仕上げた曲の楽譜を、片桐さんの家のポストに放り投げ、学校へと向かう主人公でしたが・・・。
んん~、ここまで王道で良いんでしょうか。
自らの進むべき道を模索していた主人公と片桐さん。
2人の別れは、ある意味当然の結果だったのかも知れません。なにより、2人の出会いが遅すぎたともいえますが、
しかしそれは結果論にしか過ぎませんよね。
どちらにしても、自分が本当に描きたいもの、創りたいものが見つかるまでは、お互いにハッピーとなり得ないことは
2人とも解っているのではないでしょうかね。
それを解った上で、彼女に対して「行くな!」なんていうのは単なるエゴでしかないでしょうし、困惑しても
背中を押してあげるだけの「優しさ」をもっている主人公ですから、たとえ胸が張り裂けるような思いをしても、この
別れを甘受したことでしょう。
それが良いか悪いかなんてのは、それこそ当の2人に委ねるしかありませんが。
かくして、2人はいい形で落ち着くわけですが、やはり、ここも王道、ベタベタではありますが、それがかえって安堵の
涙を誘ってくれます。
プロットとしての「ときめきメモリアル」よりも、様式美を追求したようなシナリオ創りが非常に光る作品だと思います。
後日談として語られる、「旅立ちの詩」での「彩の卒業式」では、その物語の素晴らしさも手伝ってか、「彩~」のシーンが
なんども蘇ってきます。いや、とてもいい作品でした。
背景画は鈴音ちゃんでした♪
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