〜 旅立ちの詩 〜
ドラマシリーズの大本命にして、ときメモ1を統括する作品です。
最後を飾るヒロインはやはり、紅の髪を持つ初代女帝「藤崎 詩織」、そしてときメモの裏の世界に
燦然とその存在を誇示するコアラ型の髪型少女「館林 美晴」のダブルキャスト。
シリーズの締めくくりにふさわしいラインナップです、はい。
この作品における主人公は、前2作品とはまた違った設定です。
1の主人公がサッカーに情熱を燃やし、成功しました。
2の主人公は音楽で青春を謳歌します。
しかし、今作品の主人公、何もないんですよ。打ち込んだものって。
御幣を恐れずにいえば、多くの人はたぶん同じではないでしょうかね。
かく言う私も、高校時代にこれといってないですしね。
なぜこんな事を書いたかと申しますと、今作品における物語の軸となっているからなんです。
卒業を間近に控え、卒業文集の編集作業をする事となった主人公と藤崎さん。
卒業生全員に出された、卒業文の課題は「自分が1番輝いていた時」でした。
高校生活を振りかえる主人公ですが、ここで自分にはそんな事何一つ無かった事に気付きます。
たしかに手をかけたものはありました。
それは言ってみれば邪な考えから始めたものばかりで、長続きする訳もありません。
みんな中途半端。
結果、自信をもって「輝いていた」といえるものがなかったわけです。
1や2の主人公のように、部活動や趣味に没頭する事ができればよかったのでしょうが、
そんな夢中になれるものも無かったみたいですね。
ある意味、現代(というかバブル期くらい)の大学生を皮肉っているようにも思えます。
何かになりたくて大学に進むわけじゃなく、あるいは就職のため、あるいは遊ぶため、大卒という
いわば「免罪符」を取りにいっただけ、みたいな。
実際は目標があって大学に進み、勉学に勤しむ人のほうが圧倒的に多かったのですが、
批判的なメディアが少数派をクローズアップしたためにそんな印象があるのかもしれませんが、
猫も杓子も「とりあえず大学へ」といった風潮は厳然と存在していました。
話が逸れましたが、かようなわけで主人公は、卒業文集で悩む事になるわけです。
そして向かえた、高校生活最後のバレンタインデー。
最後の勇気を振り絞り、藤崎さんに告白しようとする主人公ですが、彼女に先制を期されます。
編集資料を買いに行った帰り、近所の公園で。
「いつまでも、仲のいい幼馴染でいましょうね。」
・・・・・・・・。
これ、誰が聞いても「それ以上の関係にはなり得ませんよ。」
と釘を刺されたとしか思えません。
聡明な藤崎さんが、言葉を違えたとも思えませんしね。
たしかに主人公は彼女に対して、モーションをかけた事はありません。ゆえに
彼女が自分にどの程度の好意を持っているかは知り得ない事も確かですよね、確かめる手段はあるにせよ
実行はしていないのですから。
そこへ来て、高校生活での思い出もそぞろときていますから、捕らえ方云々もなく、そうとしか
受け止められないのは当たり前。
でも自分なりに頑張ってきた結果が、これだったのか、と主人公は失意に暮れます。
高校生活への後悔、好きな人からの失意の言葉。
はけ口がない主人公は、何もできずに苦悩します。
藤崎さんの事は仕方が無いけれども、これからも可能性だけはあるからまだマシなんでしょうが、それよりも当面の問題は
「卒業文集」の事でしょう。
何も書くことがない。胸をはって何かに打ち込んだと言えない。これでは一筋の光明も見えない。
かくして、主人公は好雄の策略によるマラソン大会に本格的に出場する事を決意するに至りました。
と、ここまでが両ヒロインの共通シナリオなんですが、さすが集大成と言った感じでオールヒロインが
出演しまくっています。
特に、美樹原 愛ちゃんはいい味だしてます。さすがは藤崎さんの友人ですね。
彼女も主人公同様に、文集に書くことが無く悩みます。主人公はそんな美樹原さんを元気づけるわけですが
それは自分を奮起させる事にもなり、結果としてマラソン大会に出場へと繋がります。
いやあ、美樹原さん、かわいいですね。人気がないなんて信じられません。
さて、ここからは詩織ルートのおはなし。
当の詩織本人ですが、彼女の心の内は実際の所どうなのでしょう?
「幼馴染」であることはことさら重要ではない事は、誰が考えても解る事ですよね。
恋愛ものの「定番」ではありますが、事恋愛になった場合は障害にこそなれ決して恋愛の決定打になる
要因ではないです。
このあたりは後ほど紹介するエロゲー「マブラブ」に詳しいんで、そちらを参照して下さいね。
でも、詩織はその「幼馴染」であるが故の照れもあってか、どこかよそよそしい感じです。
まあ、才色兼備、文武両道(か?本当に?)の彼女ですから、主人公は余計に卑屈にもなるのでしょうが。
この彼女のアイデンティティが実は、結構重要だったりします。ゲームシステム上もそうですが、物語
を追っていく上でも、です。
いってみれば彼女は「理想が高い女」とも取れます。ただ、実際はそうではありません。
なにも「3高」じゃなきゃダメよ!とは言っていませんしね。そんな女性だったら初めから主人公など
無視しているでしょうし、ね。
彼女は「頑張っている、努力している人」が好きなんだと思います。それは優秀な彼女らしく、きちんと
「将来」を見据えている事だとおもうんですよ。
言い換えれば、彼女は「リスクを避けている」とも言えます。不安な事は無いほうがいいに決まっていますが、
かといってそれを誇示すれば今度は自分が避けられてしまう。
常にいい子でいたいと思うことは決して悪い事ではないんですが、それを実践できる人っていうのはよほど
自分をしっかりと見据えていなければならないんでしょうね。
結局のところ、詩織は主人公を避けているわけでもなく、嫌ってもいません。
物語を進めていけば解るんですが、むしろすごく好意を抱いている。
幼馴染であるがために、自分でもそれが恋愛であるとは思ってはいませんが、故に接し方も昔からかわらないんでしょうね。
そんな詩織が主人公に望む事、それは
「私が安心して全てを任せられるような人になって欲しい」
といった所ではないでしょうか。
生活もそうですし、仕事もそう。頑張ることは安心できる生活を維持する事、と思っているに違いありません。
それがいい事か悪い事なのかは、先々を考えればわかる事ですが、それを高校生に求めても厳しいのも確かです。
それ故に彼女の「敷居」は高いと感じるんでしょうか。
とはいえ、そんな穿った理屈ではないにしろ、ここまで挫折感を味わう羽目になったのは他ならぬ主人公自身に
原因があるんじゃないでしょうか。いや、ぜったいにそうですし、主人公もそれに気付いたからこそ、遅まきながら
自分の可能性にチャレンジしたんだと思います。
それを傍で見て感じた詩織。
朝練からかえってくる主人公を、タオルをもって待ち、ねぎらう姿は、主人公への恋愛感情もさることながら
「この人は一生懸命なんだ、頑張っているんだな」
と実感できたからなんでしょうね。
後日、怪我をしてマラソン大会そのものに出場できなくなる主人公は、無理を押して出場するために走ります。
そんな主人公を心配はするものの、止めようとはしませんでした。
それは一見、冷たいようにも思えますが、それは主人公の想いを察したから、熱意を感じたから止められなかった、
というのが正解ですよね。
何でもこなせそうな彼女ですが、恋愛には慣れていない、それ故に、好きな人が無茶な事をしようとしていても、
どうしていいかわからない、と。
せめて自分にできること、主人公を諦めさせることなく、途中棄権でもいいから最後までやり遂げさせてあげたい
との彼女なりの優しさが、テーピング、という形で具現化したんだと思います。
結局卒業式に出ることはなかった主人公。
そんな主人公の気持ちを誰よりも理解できた彼女だから、あの日競技場で待っていたんでしょう。
主人公の事を本当に心配してくれる彼女、本当に健気ですし、いい娘です。
あのバレンタインの日に詩織が言った言葉は、結局言葉どおりの意味ではなく、
「恋人同士になっても、結婚してもいい幼馴染みたいな関係だといいな」
という意味だったと、ようやく主人公も気がつきます。
さすがは詩織というべきでしょうか、短い言葉のなかに、たくさんの想いを詰め込んでいたわけですね。
惜しむらくは、本編でもこのくらいの演出があれば、メインヒロインとして確固たる地位を築けたかもしれません。
代わって、今度はみはりんです。
本編とは違って、この作品で初めて彼女と「会話らしい会話」ができます。
これはこれで非常に嬉しい事ですね。本編で彼女のエンディングを迎えたことがあれば、それは何倍にも
膨れ上がる事でしょう。
相変わらず、前向きなのかシャイなのか、積極的なのかは釈然としませんが、少なくとも本編よりはやや強引ではあります。
主人公に間違い電話をかけるのは本編同様ですが、この作品ではそれも一方通行ではなく、主人公も受け答えしている所が
最大の違いですね。
それが、主人公と彼女の初対面(初デート)に繋がるわけですが。
電話で主人公に話した内容、
「好きな人に告白できなくて悩んでいる」
という事、これは確かにそのとおりなんですが、これが結果的に自分を追い込んでしまうなんて、考えてもみなかったんでしょね、きっと。
主人公は本気で彼女の悩みを聞き、気にかけてくれます。自分の事を棚に上げて(笑)。
主人公にも、彼女の悩みに共感できる部分があっただけに、さらに何も無い自分を見つめ直すことができただけに、彼女の悩む気持ちが
痛いほど理解できたんだと思います。
勿論、彼女の本心は別として、ですが。
普通の、それこそ普通の友達として接する事ができたみはりんですが、これで一先ずは安心できたんでしょうか。
いや、もしかすると「ただ見ている」頃よりも辛くなっていたかもしれません。
それは時間が、2人でいる時間が積み重なっていくにつれ、とても大きくなっていくんでしょうね。
事実、すでに言い訳できる状況では無くなっていましたから、ね。
後悔したくない、けれども勇気も出せない。
悪い言い方をすれば、恋愛に関しては完全に他力本願なところがある。けれども、それは解っているが想いを砕かれる事のほうが
もっと怖い。
ジレンマといってしまえばそれまでですが、言い方をかえれば、彼女は自分に自信が持てないのでしょうか。
主人公もこのあたりは同じと言って良いと思われます。それ故の現在の悩みがあるのですから。
しかし、客観的にみて彼女はとても魅力的だと思うんですよ、正直な話。
出会うのが遅かったと言うのも有りますが、彼女の本質的な人物像を理解するのは決して時間がかかる物でもないでしょう。
基本的には彼女は詩織と同じ。優しくて他人を気遣える女性。しかも成績優秀。
自信が持てないのはどこかにコンプレックスがあるのか、あるいは本当に内気なのか。
個人的な意見ですが、私は前者だと思います。本編では(間違い電話をはじめとして)ちょっかいを出しまくっていた事を
考えれば、美樹原さんのように本当に内気であったとは考え難いですし(まあ、美樹原さんも本質はどうかはわかりませんが)。
鏡さんのように、過去に男性に関して辛い事があったとは(物語進行上から見て)考え難いです。
自信が持てない、イコールコンプレックスというには短絡的過ぎますが、あながち的外れでもなさそうです。
単に臆病だから、では、数々のアタックも納得いかないですしね。
ある日、彼女は主人公に「お守り」を手渡します。
マラソン大会が無事終るようにと、なぜか「交通安全」のお守り。その「お守り」には、一緒に撮ったプリントシール(プリクラね)と
1つの鈴。
彼女の精一杯のアピールと、心に収まりきれない想い。
この2つが詰め込まれたお守りを、彼女はどんな気持ちで渡したんでしょうか。
そして主人公も、どんな気持ちで受け取ったのでしょう。
練習の時に、どこまでも清楚に、美しく鳴り響くたった一つの鈴の音は、彼女の心の叫びとシンクロしているようにも思えます。
故に主人公も、この「お守り」が、どこか力を与えてくれると感じていたんでしょうか。
ともあれ、状況的にすでに告白するタイミングを失ってしまった彼女。
言い方は悪いですが、この状況を作り上げてしまったのは他ならぬ彼女なんですよね。
しかし、後に彼女も(手紙で)言っていましたが、関心を惹くのに必死だった彼女からすれば、これはこれで進歩したと
いっていいんでしょうね。
でも、なにも解決できていない事も確かなんですが。
刻々と迫る卒業までの、別れまでの時間。これ以上の関係に発展しえない事に対する焦り。
主人公が彼女の事を心配すればするほど、彼女は辛い思いに押し潰されそうになります。
お互いを気遣う姿は見ていて痛々しくさえ思えてしまいますがそれも経緯からすれば仕方がない所。
そんなみはりんの切なる想いに気付かない主人公は、事もあろうか彼女に「告白の練習」といって、主人公に対して
告白してみようと言ってしまいます。
辛い、とても悲しい瞬間。
「本当に好きなのはあなたです。」
そういえない状況の中で、図らずも3年間言う事ができなかった「好きです」と言う事ができた彼女ですが、それは同時に
主人公には、彼女に対する気持ちがない事も告げられたと同じです。
万感の想いが詰め込まれた一筋の涙が頬を伝わる瞬間、全てが終わったと思ってしまうのも仕方がない事です。
たしかに彼女の想いに気がつかなかった主人公ですが、そんな主人公を「鈍い」、「残酷」と断罪する事は
どうしてもできません。客観的にみれば、単なる相談相手だったのですからね。
その後、主人公もようやく彼女の想いに気付くわけなんですが、すでに彼女に辛い想いをさせてしまった後。
自分のしてきた事が彼女をもっと辛い立場に追い込んでしまったんだと後悔することになります。良かれと思ってやった事だった
だけに、その後悔はとてつもなく重くのしかかってきます。
その後、彼女からの、全てを終わらせるための手紙を読んだ主人公は、彼女へ電話をかけます。
留守電のメッセージに、自分が彼女に対してしてきた事への謝罪、そして、自分の偽りのない気持ちを残して、
いよいよマラソン大会当日を迎えます。
全てが終わった、全てを終わらせる。
自分の3年間の締めくくりという意味を持っていたマラソン大会でした。
スタートの直前、不意にスタジアムに響く、あの鈴の音のようにどこまでも清楚で透き通った、心地のよいみはりんの声。
「がんばって! 大好きだよ!」
彼女が初めて、全ての想いを、自分の意思でありのままに出した心からの叫び。
この瞬間に、2人が本当の「卒業」と同時に「スタート」が切れたんだと確信しました。
辛い想いを乗り越えた彼女、そして主人公。
詩織好きの方には申し分けないですが、この作品で一番感動した場面です。
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